ベルリン・ワルトビューネで開催された、夏の夜の野外コンサートの映像を見た。ローマ時代の遺跡のような美しい円形劇場は、世界中から集った多くの人々でうめつくされていた。演奏された曲は、ロシアの作曲家ラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番ハ短調」。
この美しいピアノ曲に多くの人が酔いしれ、ピアニストと木管楽器のソリストが奏でる第2 楽章では、涙している人も見うけられた。演奏が終了した後、画面からは深い感動が伝わってきた。そして、民族を越えた音楽の力、共有する感覚、場の持つ力を強く感じられた瞬間だった。
聴く度に新しい発見があり静謐な水の流れの様なこの曲に、今回ほど悲しみに近い深い感銘を受けたことはない。今だに音楽の余韻とともに、何かに包まれている様な感覚が残っている。
演奏の間中、今年2月に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻のことが、何度も頭の中をよぎった。日々映し出される戦火にさらされる街の様子、避難を余儀なくされる幼い子供達、国境での家族の別れ…。
ロシアによる軍事侵攻と長引くパンデミックも相まって、私達の心のあり方にも大きな影響を及ぼし、以前の価値観や考え方が明らかに変化し続けている。
今の私達だれもがこの戦争が1日でも早く終結することを願っている。そして、思想や宗教などの差異はそのままに、共に差別や分断のないより良い世界を探る道があることを信じたい。
今展では、「暖かく心休まる場所」から遠くにいる人々のため、平和への祈りを込めて《沈黙の街―リヴィウ Lviv ―》、《灯火》、《祈りの木》を展示する。